カメラはうそをつかない

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『さみしい。この一秒一秒が過去になっていくのが、さみしい。』

どうして写真を撮っているの、と尋ねられた。すこし悩んで、記憶力がないから、とわたしは答えた。

わたしは昔から、起こった出来事を記憶しておく力が弱い。これ以上悲しいことなんてないと絶望した夜も、嬉しくて涙を流したあの思い出も、今となってはぼんやりと頭の片隅に残っているだけ。忘れたくない、残しておきたい、その手段のひとつとして、写真を撮る。

だからきれいに撮る必要なんてない。(もちろん、きれいに撮れると嬉しいけれど。)残したいと思った瞬間に、シャッターを押したい。それがいちばんで、シャッターに指をかけたまま、出掛けたりもする。

毎日の何でもない出来事も、友達と笑い合った時間も、見慣れた風景も、写真におさめれば色褪せずに留まってくれる。写真を見返せば、その瞬間のこと、前後のこと、匂い、温度、ぜんぶ思い出せる。

携帯で撮ればいいんじゃない、と言われた。それもそうだと思う。でも、わたしにとってデジタルなものは不確かだから、アナログなほうがいい。ネガがあれば、写真はなくならない。

最近写真をあんまり撮っていなかった。残さなきゃ、今を。忘れちゃいけない。死にたい夜を、信じたかったあの人を、やさしい言葉を、ぜんぶ、ぜんぶ。忘れてしまったら、わたしはまた前に進めなくなる。

忘れず、過去にして、歩かなきゃ。

ホープ

f:id:mizuumi_no_asa:20160323225319j:plain街でよく会う外国のひと、最初は知らん顔、だんだん手を挙げて挨拶をするようになって、最近はHow are you?と聞かれるようになった。I'm fineしか返事を知らないのでいつもわたしはげんき。そうしてそのまままたすれ違って別れる。それだけ。

だけど昨日、ひょんなことから一緒にちょっとした夜の散歩をした。29歳、ジョージア州生まれ、誕生日は11月22日で日本に来てもう7年。日本語の話せない彼と英語の話せないわたしの拙い会話。

しあわせな気持ちになっていたら、「もう引越しをするんだ」と彼は言った。急に悲しくなって「いつ?」と聞いた。「月曜日に。仕事で遠くへ行くよ」

出会ったばかりなのに、はじめてhow are you以外の会話をしたのに、もうお別れなんだ。2年前にも、同じことがあった。街で絵を描いていたオランダ人、友達になったそのときに、来週日本を離れると言っていた。ああまたか、と思う。

彼は言った。「この街・嫌い」ほとんど日本語を話せないのに、この時だけは日本語で言った。ハッキリとした物言いがあまりに格好よくて、少し反応が遅れた。「…どうして?」「この街・しずか・次は・hope・hope」たぶん、次の街は賑やかなところがいいと願っているんだろう。わたしも言った。「hope・hope」手を合わせて。

月曜までに、また彼に会えるかは分からない。会えたら、お別れ言葉を英語で言えるように、練習しておこう。新しい場所が、明るい街でありますように、彼がたのしく暮らせますように。

愛しかないけど

f:id:mizuumi_no_asa:20160308133133j:plain両親の喫茶店はバイトを雇わずふたりで切り盛りしているので、片方が倒れると途端に店がまわらなくなる。両親ともに時間差で風邪に倒れたので、ここ数日は自分のバイト以外の時間、大体私も店に立っている。

うちのお店のお客さんは、ほとんどが年配の方だ。だけど折り目正しい真面目な純喫茶、というよりは、地元の人たちが集まるやわらかな喫茶店、という感じがする。(贔屓目に見ているのかもしれない。)

おじいさんたちは、もう20も半ばになろうかという私のような女にも、可愛い可愛いと言ってくれる。若いというだけでちやほやしてくれるのでありがたい。もう70になる私のおとうさんのことまで若いと言うような方たちだ。私なんてまだ赤ちゃんみたいなものなのだろう。

「イエスタデイは、ポールが夢の中で書いた曲らしいよ」と、この間知ったばかりの話をあたかも自分の知識かのようにお父さんに話した。お父さんは店の音楽をジャズからビートルズに変えた。Eight Days a Weekが流れる、1週間に8日分の愛を。

いつもはお母さんの仕事なのだけど今日は休んでいるので、お父さんがサラダ用の玉ねぎを切った。お父さんが、お母さんのように出来ない、厚くなってしまった、とお母さんに見せるのを怖がっていて笑った。大丈夫、私が切ったらぶつ切りになっていたよ、と励ました。

お母さんにそれを報告すると、お父さんが「申し訳ありません、お詫びにナポリタンをお納めください」と赦しを請っていてまた笑った。私は自分の家族が好きだ。

まだビートルズが歌ってる。All You Need Is Love、愛こそすべて。きょうのお昼は、ナポリタン。

心の中の色紙

f:id:mizuumi_no_asa:20160303210930j:plainあの素晴らしい時間を、言葉にすると安っぽくなってしまうと思うのだけど、忘れたくないから残します。

誰もが、"旧andymori"を意識していたと思うし、それは仕方のないことだと思う。だけどそこにいたのは、(当たり前なんだろうけど)"旧andymori"じゃなかった。

単なるツインボーカルじゃない、完璧なバランス。今までandymoriに感じていた危なっかしさ、というのをALでは感じなくなっていた。

壮平が「ようこそ」と言った、その瞬間からもう涙があふれそうだった。わたしは、大樹のドラムを叩く姿を初めて生で見たのだけど、あの叩き方は、目が離せなかった。大樹は最後立ち去るとき、ほんとうに小さく頭を下げていて、ぜったいに見えないのだけどこっちまで小さく頭を下げてしまった。

壮平が鈴を鳴らしていた姿はなんだかシュールでちょっと笑っちゃったけど、それでも切り取って絵画にできるくらいうつくしかった。寛は、いつもヘンテコな服を着てる気がする。そこが愛らしいよ、とも思う。あと、知之が居てくれてよかった。知之がメインでうたっていた「15の夏」、めちゃめちゃ良かった。

気付いたら、ぼうっと口をあけて聞き入ってしまうような、そんな時間だった。そりゃぽかんともするよな。4人で歌う、というエネルギーが大きすぎた。あるいは賛美歌のように、美しさを持って。

これこそ陳腐な言い方でいやなんだけど、どこにも行けないわたしが、壮平の声でどこまでも連れてってもらえるような、そんな気がした。

いつまでも、自由に彼らが音楽をやってくれたらいいな

おはよう

f:id:mizuumi_no_asa:20160222201630j:plain何か、しなければ。と思い立って、平日の一日休みに電車で小さな旅に出ることにした。鈍行で、片道1000円。それだけで一時間電車に揺られることが出来るらしい。遠出の気分を味わうにはそれで十分だった。

電車は、ちょっぴりセンチメンタル。

知らない街を走る車窓から見る景色に、見覚えのあるものがあった。なんだろうとしばらく考えて少しずつ思い出していく。あー、あの場所へ行ったのは、まだ暑い日だったな。あのときは車で人に連れて行ってもらって、ベタベタと汗をかくのが鬱陶しくて、少し緊張していて。そうそう、あの時だ。って考えていたら、ぽろぽろと涙がこぼれて、ハンカチも持ってない自分にがっかりしながら、きちんと化粧をしたのに面倒だな、とぼんやり思った。

知らない街を歩くのは、さみしいような、わくわくするような、複雑なきもちになる。でもそれは全くいやな感じではなく、わたしはいつもその気持ちを楽しみながら歩く。

駅を出てまっすぐ30分、前ここへ来たときも、そういえば心がすり減っていたな。カフェといくつかの雑貨屋さんがひとつの古い建物の中にある場所。カフェに入って、あたたかい珈琲と、見た目が可愛いからという理由でオレンジのブラウニーを頼んだ。雑貨屋さんをまわると、可愛いハンカチがあったので、買って帰ることにした。これでもう、泣いても大丈夫。

私は、最低な人間かもしれないけど、それでもひとつずつなおしていけたらいいな、と思う。完璧な人間なんていないけど、そこを目指すことは、悪いことじゃないよな、って、すこしすっきりした気持ちで電車に揺られながら帰った。

ねむり

f:id:mizuumi_no_asa:20160212211635j:plain高校生のときに買って、読んだつもりになっていたよしもとばななの「白河夜船」を読んだ。眠りの三部作。5、6年も読まれず本棚にずっと居たんだな

よしもとばなな自身も、底辺にいたことがあるんだろうな、と思った。あるサイトでは「おちるところまでおちたことがないひとには、わからない物語なんじゃないかしら」と感想を書かれていた。確かにそうかもしれないな。

この本を読んで、眠ることしか出来なかった一年前の私が少し救われた気がした。仕事を辞めてからの半年間は、すごく不思議な時間だった。私の部屋だけ空間が別で、めまぐるしく過ぎているようにも、停止しているようにも思えた。回復であり、腐敗。

何千回も同じ曲を聞いた。寝ているのか起きているのか分からない朦朧とした日々。それでも確実に回復に向かっていたんだな、と今は思える。

『まるで祈りのような気分だった。―――この世にあるすべての眠りが、等しく安らかでありますように。』

この部分が大好き。安らかに眠れますよう。

またね。

君に春を思う

f:id:mizuumi_no_asa:20160210182607j:plainお花の話

お友達にお花を当てはめるひとり遊びをよくする。あおちゃんはデルフィニウム、きえるちゃんはガーベラ、雛子ちゃんはアネモネ、ひよりちゃんはカモミール、という感じに。わたしはホトケノザ、って感じかな。

でもお花は好きだけど、あんまり詳しくない。種類もほとんど知らないし。最近買った花かんざしという花は、説明に「風に吹かれてゆらゆらとたなびく白い花。まるで小さな妖精が舞っているかのようです。」と書いてあって、お花が可愛いだけじゃなく説明まで可愛い!と感激したところ

春に向けていろいろお花を買い集めてる、冬が一番すきだけど、あたたかくなる日も待ち遠しいな