ゆめのような

f:id:mizuumi_no_asa:20151025223757j:plain「珈琲」

数年前、父が何十年も勤めた会社が倒産した。いきなり職を失った父は何を思ったか店をひらいた。喫茶店。

それまで珈琲はそこまで好きじゃなかった。飲んだとしても牛乳も砂糖もたっぷり入った、ほとんど珈琲の味のしないカフェオレだけだったし、自分で淹れることもしたことがなかった。でも今は「珈琲を淹れる」という行為そのものが好きだ。豆が膨らむときの多幸感、豊かな時間をくれる。忙しない毎日に必要なのはこういう時間だな、と思う。

すこし前までは実家の喫茶店の手伝いでよく店に立っていた。みんなにもきてほしい。それぞれ他人同士がうちの店で知り合っていくような、そこにわたしの淹れた珈琲を出したい。ぜったいしあわせな時間にしてみせるのにな。

ゆめのようなはなし