カメラはうそをつかない

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『さみしい。この一秒一秒が過去になっていくのが、さみしい。』

どうして写真を撮っているの、と尋ねられた。すこし悩んで、記憶力がないから、とわたしは答えた。

わたしは昔から、起こった出来事を記憶しておく力が弱い。これ以上悲しいことなんてないと絶望した夜も、嬉しくて涙を流したあの思い出も、今となってはぼんやりと頭の片隅に残っているだけ。忘れたくない、残しておきたい、その手段のひとつとして、写真を撮る。

だからきれいに撮る必要なんてない。(もちろん、きれいに撮れると嬉しいけれど。)残したいと思った瞬間に、シャッターを押したい。それがいちばんで、シャッターに指をかけたまま、出掛けたりもする。

毎日の何でもない出来事も、友達と笑い合った時間も、見慣れた風景も、写真におさめれば色褪せずに留まってくれる。写真を見返せば、その瞬間のこと、前後のこと、匂い、温度、ぜんぶ思い出せる。

携帯で撮ればいいんじゃない、と言われた。それもそうだと思う。でも、わたしにとってデジタルなものは不確かだから、アナログなほうがいい。ネガがあれば、写真はなくならない。

最近写真をあんまり撮っていなかった。残さなきゃ、今を。忘れちゃいけない。死にたい夜を、信じたかったあの人を、やさしい言葉を、ぜんぶ、ぜんぶ。忘れてしまったら、わたしはまた前に進めなくなる。

忘れず、過去にして、歩かなきゃ。